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出土品の保存処理について

木製品の保存処理

発掘された木製品

 木材などの有機質のものは長い年月が経つと腐朽していき、大抵のものは存在自体がなくなってしまいます。しかしながら、低湿地や川、溝など地下水が豊富な条件下ではその存在が残っているものがあります。そのため発掘調査において見つかる木製品のほぼすべては、水浸な状態で見つかります。一見それらの木製品は形状を保っているようにみえますが、腐朽などにより極めて脆弱です。木材の成分の多くは分解され、水によってかろうじて形状を保っているだけで、そのまま乾燥させると著しい変形が起こります。また、水浸状態のままでも、展示や公開をすることができませんし、木製品の劣化が進み、長く保存することができません。そのため出土木製品に含まれる水分を安定した薬品に置き換え強化するために保存処理を行う必要があります。

糖アルコール含浸法による保存処理

 現在用いられている木製品の保存処理方法は、糖アルコール含浸法、PEG含浸法、真空凍結乾燥法、高級アルコール法など複数の方法があります。そのうち桜井市立埋蔵文化財センターでは、平成6年に保存処理機を導入し、今津節生氏によって開発されたラクチトールを用いた糖アルコール含浸法による保存処理を行ってきました。この処理方法の利点は以下のことにまとめられます。





Kamen.gif      保存処理された木製仮面

処理方法の利点

①ラクチトールなどの糖アルコールは木材から失われた細胞成分と似た性質を持っていることから、質感がよく仕上がる。

②処理に用いる糖アルコール(ラクチトールとトレハロース)は、人工甘味料の一種で食品などにも用いられていることからも取り扱いが非常に安全。

③ラクチトールなどは分子構造が小さいため、木材に浸透しやすく、比較的短期間で処理することが可能である。

④処理が行われた木製品は常温で管理することが可能で特殊な保管設備は不要である。

 以上のように作業的にも安全なことや簡易な機器で始められることは、桜井市埋蔵文化財センターのような規模の機関にとっては、処理技術の習得や予算面においても大きな利点です。

次に具体的な保存処理の手順を以下に記しておきます。

①木製品の洗浄

 出土した木製品には多量の土砂が付着しているため、柔らかなブラシや筆などで丁寧に水洗する。また、この時に表面の様子を観察し、加工痕、漆や朱などが塗布されていないかなどの観察を行い、写真撮影及び実測を行う。

mo-a.jpg木製品の洗浄

②アク抜き

 処理後の仕上がりをよくするため木製品に含まれるアクや鉄分などを抜き取る。

mo-b.jpgラクチトールを投入

③糖アルコールの含浸

 保存処理槽のなかにラクチトール40%の水溶液をつくり、木製品をこれに浸す。木製品の状態によってはラクチトールとトレハロースを混合したものにする。

④溶液の濃縮

 それらの溶液を70℃前後になるように加熱し、木製品に溶液が十分に含浸されているのを確認しながら、溶液の濃度をゆっくり段階的に引き上げ最終的には80%前後になるまで濃縮する。

mo-c.jpg濃度の確認

⑤乾燥

 木製品を溶液から引き揚げて表面を温水で洗い流し、乾燥させる。

mo-d.jpg表面のクリーニング

⑥仕上げ作業

 乾燥終了後、破損していた箇所を接合し、欠損した部分をパテなどで補い、必要であれば、表面のクリーニングや着色などを行う。

 上記のような手順を経て木製品の保存処理は完了し、処理された木製品は、展示や収蔵庫へ保管されることになります。しかしながら、この処理方法も完璧なものでなく、さらに改良を加えられながら運用されています。また、遺物の経年変化を観察し適切な管理方法を模索していくのも、処理後の重要な作業になっていきます。

 当埋蔵文化財センターで保存処理が行われる以前は、保存処理作業は外部の機関に委託していました。この方法では予算の面などからも保存処理を行うことのできる資料数も限られ、保存することのできなかった重要な資料も少なからずありました。当センターで保存処理が行われるようになって、保存した木製品の数は飛躍的に増え、展示室などで多くの資料を公開できるようになりました。保存処理作業は、日々の発掘で多量に出土していく木製品を保存し、公開するために欠かせない作業であり、我々には保存処理技術の向上やさらなる知識の習得が求められることになります。

【参考文献】

今津節生1994「糖アルコールを用いた水浸出木製品の保存(Ⅰ)―糖類含浸法とPEG含浸法の比較研究―」
『考古学と自然科学』日本文化財学会誌 第28号

沢田正昭編2003『遺物の保存と調査』株式会社 クバプロ

財団法人桜井市文化財協会1996『平成8年度冬季企画展 古代桜井の木製品』
桜井市立埋蔵文化財センター展示図録第13冊

財団法人桜井市文化財協会2008
『平成20年度秋季特別展 色から見た考古学~考古学を楽しむための5色のキーワード~』
桜井市立埋蔵文化財センター展示図録第34冊

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金属製品の保存処理

 遺跡や古墳で発掘調査を行うと、金属製の遺物が出土することがあります。長い間地中に埋もれた状態にあった金属製品は腐食が進行しており、加えて発掘することで新たに空気中の酸素や湿気の影響を受けるため、そのまま遺物を保管しておくと更に腐食が進行して崩壊してしまうおそれがあります。
こうした金属製品を長期で保管するために、化学的な方法を用いて腐食の進行を抑制するための保存処理を行います。


te-7.gif 保存処理された銅鏡

桜井市立埋蔵文化財センターでは、以下のような工程で金属製品の保存処理を行っています。

① 洗浄

 出土した金属製品の表面に付着した泥を落とします。水分は金属の腐食を促すため、洗浄には水を用いず、アルコールを使います。腐食が進行したもろい遺物の場合は、不用意に泥を落とすと遺物そのものが破損してしまうことがあるので、丁寧に行わなければなりません。

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金属製品(鉄釘)の出土状況

 金属製品が出土すると、腐食が進行しないうちに記録作業を完了し、早めに持ち帰るようにしています。

アルコール洗浄後の鉄釘

 一部の泥は、さびに取り込まれているため、洗浄しても簡単には落とすことができません。

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②さび取り

 腐食生成物である「さび」や、アルコール洗浄で落としきれない付着物の除去をする作業です。メスや小型のグラインダーのほか、精密噴射加工機などを用いて行います。
さびの除去は、遺物の腐食の進行を抑えるという目的のほか、研究や展示資料として使えるよう、遺物の形態や文様などを見えるようにするという目的があります。ただし、さび取りを行うことにより遺物が損傷するような場合や、遺物に伴う付着物が剥れるおそれがある場合には、無理にさびを落とさないよう気を付ける必要があります。

さび取り後の鉄釘

 表面には木棺の木質が付着しています。棺の形態を復元する上で重要な資料であり、剥れないように慎重にさび取を行います。

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精密噴射加工機によるさび取り

 アルミナの粉末を高圧で吹き付けてさびを落とします。

③脱塩処理と防錆処理

 脱塩処理は金属製品の保存処理の中でも最も重要な工程で、遺物に含まれた塩化物イオンを除去する作業を行います。塩化物イオンは金属と反応して腐食を招くものであり、完全に除去することができれば、腐食の進行を抑制することができます。脱塩処理には様々な手法がありますが、当センターではアルカリ溶液(水酸化リチウムのアルコール溶液)に金属製品を浸して塩化物イオンを除去する方法を採っています。脱塩処理の期間は遺物の大きさや状態にもよりますが、およそ数ヶ月程度を要します。
 このほか特に銅や青銅製品では、ベンゾトリアゾール(BTA)のアルコール溶液を遺物に浸透させて防錆をはかる処理を行っています。

④ 合成樹脂含浸(がんしん)

 脱塩処理が完了した金属製品に合成樹脂を浸透させる工程で、腐食によりもろくなった遺物を補強することと、遺物を外気に触れないようにして腐食の進行を抑えることを目的として行います。含浸はアクリル系の合成樹脂をキシレンで溶かした溶液に浸して行いますが、合成樹脂をより効果的に遺物に浸透させるため、減圧状態で含浸を行います。

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減圧含浸用のタンク

 遺物には目に見えないような凹凸や隙間があります。合成樹脂のキシレン溶液は粘性があるので、減圧状態にすることで、そうした凹凸や隙間に溶液を浸透させることができます。

樹脂含浸後の鉄釘

 合成樹脂の薄い膜で覆われた状態にあるため、表面はやや黒味がかり、光沢が見られます。

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⑤ 仕上げ

  破損した状態にある遺物を接合し、欠損した部分はパテなどで補って復元します。
 保存処理が不十分であると判断された場合は、①~④の工程を再度行います。

⑥ 保管

 ①~⑤の工程を経て保存処理は完了し、処理された金属製品は保管されることとなります。しかし遺物の状態によっては、脱塩処理が完全に行えない場合もあります。このため展示など人の目に触れる機会以外は、乾燥した環境で遺物を保管・管理することが大切です。

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金属製品の保管

 脱酸素剤・乾燥剤とともに、通気性の無い素材でパックした状態で保管します。


現在は概ね上記のような工程で金属製品の保存処理を行い、埋蔵文化財センターの収蔵庫で遺物を保管しています。しかし金属製品は銅や鉄、金、銀など性質が異なる様々な素材が用いられ、また遺跡の環境によっても遺物の腐食状況は変化します。したがって保存処理は、こうした個別遺物の性質や状態に適した方法で行わなければなりません。処理後の遺物の経年変化を記録し、より適切な方法で保存処理が行えるよう努めていくことが大切です。