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第2回 「箸中のノグチサン」

はじめに
 今回の「ちょっと寄り道」では、桜井市大字箸中で行われる「ノグチサン(野口さん)」を紹介したいと思います。このノグチサンは村のはずれにある樹や祠、神社の境内にある大木などを農耕の神様として祀る行事であるノガミ行事の一つで、毎年土用の丑の日に近い日曜日に、桜井市大字箸中に住む17歳(数え年)になる男子とその家族によって行われます。今年は7月26日に3家族によって行われました。地元の人は「ノグッタン」などと呼んでいます。








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国津神社の正面

ノグチサンの内容
 当日の朝9時ごろに、箸中地区ある国津(くにつ)神社の境内に該当する男子とその家族が集まり、準備に取り掛かります。まず父親と子供で行事に使う綱を作ります。この綱は一掴みほどの麦藁を直交させて突起を作りながら編んでいきます。この数は決まっていて48個の突起が作られますが、浄土宗の「四十八願」や四十八滝などの数が多いさまを表すものと関係があるのではないでしょうか。次にこの綱の端々を繋げて輪状にします。この綱の輪に、割った青竹を同じく輪状にしたものを結び付け、綱が輪状を保つことができるようにします。こうしてできた綱の輪を笹のついた青竹に結び付けて、行事に使う綱は完成です。その後は、子供たちは画用紙に牛と唐鋤の絵を描いて絵馬を作ります。



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網つくり前の拝礼


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父親が息子へ作り方を伝える

 この間に母親たちは、お供えものを準備します。三方を4つ用意して、一つには榊、平子、水玉、ろうそく、神酒、洗い米、塩を乗せ、一つにはサシサバ一尾を乗せます。残り2つの三方にはツノメシ(角飯)を乗せます。このツノメシは一升の米を7合分の水で炊き上げたものを二つに分け、高さ7.5㎝、四方15㎝の木枠に入れ押飯にしたものです。押し固めることで四隅が角のように尖っていることからツノメシと呼ばれています。



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四隅がつののようにとがったツノメシ

 すべての準備が整うと、綱の輪、お供え物、ほら貝、絵馬を国津神社の拝殿前に供えて拝礼した後、出発します。道中は一人がほら貝を吹き、一人が綱の輪を掲げて、最初の目的地である井寺池に向かいます。ほぼ一直線に向かうルートで、はじめは舗装されている道路を練歩くのですが、途中から里道を通り、およそ15分で池に到着します。ここで綱の輪から笹の付いた青竹が外されて、池の水門に結び付け、輪の方はその手前に置かれます。ここで男子3人が池に向かって拝礼した後、場所を移動します。次に向かうのは「カンジョ」と呼ばれるところで、「神上」と書くそうです。ここには大きなアオキの木があって、この木に綱の輪をかけて、お供え物、絵馬を並べて拝礼します。その後、木の幹に清めの酒を振り掛けて、国津神社へ帰ります。最後に神社の会所で直会をして、ノグチサンは終わりです。


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完成した網の輪


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お供え物とほら貝

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網の輪をかかげ、ほら貝を吹きながら練り歩く

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井寺池の前で拝礼

さいごに
 このノグチサンは、戦前は2日間にわたって行われていました。祭りの前日は17歳の男子がほら貝を吹きながら村中を歩き、各家々から小麦を枡一杯ずつ集めます。集まった小麦は5・6俵にもなります。またこの小麦を俵締めするときに力比べをしたと言われています。祭りの当日(土用の丑の日)は綱つくりやお供え物の準備が終わると、それらをもってまずカンジョへ向かいます。そこで綱の輪を木に供え、拝礼した後に池に向かいます。池では中央にある樋に青竹を立てて、会所へと戻ります。会所では直会があり、参加した男子全員に対してツノメシ一つが振る舞われます(詳しくは「大和の野神行事(下)」を参照)。



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大きなアオキのあるカンジョ

 またノグチサンという名称ですが、一説によるとノグチの「クチ」は蛇を表す古語で、クツナ、クチナワと同語になります。また蛇は、水神やその使いとして崇められることもあることから、「野」の「クチ」を祭る行事が行われるようになったと考えられます。そして、神様を呼び捨てにしてはいけないということで親しみを込めて「さん」をつけ、「ノグチサン」と呼ぶようになったのではないでしょうか。
 さらにノグチサンは農業の祭り・田の神の祭りという面だけでなく、17歳の男子とその家族で行われることから、子供たちの大人への仲間入りという通過儀礼の側面も持っていることが良く分ります。特に綱の輪つくりでは、まず父親が手本を見せ、子供がそれを見て作るという光景は、技術の継承とも考えることができます。このようにして代々受け継がれてきたこの行事を、今後も絶やすことなく続けていってほしいと思います。


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国津神社・井寺池・カンジョの位置とノグチサンのルート

【参考文献】
「大三輪町史」1959 大三輪町史編集委員会
「奈良県文化財調査報告第49集 大和の野神行事(下)」 1986 奈良県教育委員会
「奈良県祭り・行事調査報告書 奈良県の祭り・行事」 2009 奈良県教育委員会

写真をクリックすると拡大します     (文責:公益財団法人桜井市文化財協会 武田雄志)